相続した農地を自家利用する場合
相続した農地を自家利用する場合には、
- 相続人が農地を承継する
- 相続人以外に農地を承継する
- 農地を一時的に貸付ける
- 農業の法人化をする
といった方法が考えられます。
相続人または相続人以外に農地を承継する場合、農地所有者が亡くなった後のタイミングになると、「相続」、「遺産分割」または「遺言」により権利を取得する事となり、農地所有者が亡くなる前のタイミングでの権利移転の方法としては、農地等を「生前贈与」することにより承継者に権利を引き継ぐことができます。
農地法は、農地の所有権を移転する場合には、農業委員会から許可を受けなければならないと規定しています。
「相続」「遺産分割」もしくは「遺言」により権利が移転される場合には、許可をうけることなく権利の移転が可能です。
一方、生前贈与による場合には、農業委員会の許可が必要となりますし、相続人以外の者に対して特定遺贈を行う場合も農地法3条の許可が必要となります。
農地の自家利用を希望しているものの推定相続人に別の生業があって就農が困難な場合には、その子(孫)や配偶者などに農業を承継させ、農地の自家利用を継続するという方法が考えられます。
相続人に農地を承継させる場合には、一定の要件を満たせば、税の全部または一部に対して納税猶予を受けることができますが、孫や子の配偶者などの相続人以外の者に対して生前贈与や遺贈する場合、それぞれ贈与税や相続税の負担が生じます。
具体的な手続きについてはコチラ(所有権移転の具体的手続き)をご参照ください。
農地を一時的に貸し付ける
農地を所有者が高齢で引退した場合や死亡した場合に、後継者がすぐに就農しないときには、就農するまでの間、農地を放置しておくわけにはいきませんので、農地を一時的に他者に貸すことが考えられます。
農地法による農地の貸し出しの場合、「契約の自動更新」や「契約の解除には都道府県知事の許可が必要」といった使いずらさがあります。
しかし、現在は、市街化区域内の生産緑地であれば「都市農地貸借円滑化法」、市街化区域外であれば「農地バンク」により、更新の無い有期契約(定期借地)により農地を貸すことができます。
また、これらの定期借地を利用した場合には、農地の相続税等の納税猶予制度の確定事由にはならず、農地を貸しても納税猶予が継続します。
したがって、後継者が就農するまで時間がかかる場合や、後継者のめどがたっていないが、代々引き継いできた農地を手放すのにためらう場合などは、上記のような一時貸借で時間を稼ぐというのも一つの方法です。
農業を法人化し利用する
個人事業主として農業を行ってきた農業者が、個人事業主を法人化して法人として農業を行うことが考えられます。
法人化のメリットとしては、
- 法人登記されることで信頼性がえやすい
- 従業員雇用や設備投資の際に金融機関から融資を受ける際の信用にもつながる
デメリットは、
- 設立費用がかかる
- 社会保険の加入が必要となり負担が発生する(法人は強制加入)
などです。
農業特有の法人の活用の方法としては、法人化し、農地を自らが設立した法人に貸すことが考えられます。その法人が従業員(農業従事者)を雇用する事により、農地所有者自らが農作業に従事できない場合にも農地を耕作することが可能になります。農地所有者が高齢により農作業できなくなった場合、また、農地所有者の相続人が農業を継がない場合にも、法人に農地をかすことにより、農地を手放すことなく農地を守ることができます。
農地所有適格法人
法人が農地を所有する場合には、「農地所有適格法人」となることが必要です。
農地所有適格法人となることが出来る法人の種類は、農事組合法人、株式会社(公開会社でないもの)、持分会社です。
個人農業者が所有している農地を農地所有適格法人に現物出資する等により所有権を移転することができます。
農地所有適格法人の要件は以下通りです。
- 法人の形態が次の5つであること
・株式会社(株式譲渡制限会社に限る)
・合名会社
・合同会社
・合資会社
・農事組合法人 - 主たる事業が農業と関連事業であること
法人の農業と関連する農産物の加工販売等、農業と関連事業が売上の過半であること
- 株式会社であれば、下記の者に該当する株主の有する議決権の合計が総株主の議決権の過半を占めなくてはなりません。
・その法人に農地の所有権の移転もしくは使用収益権を設定した個人
・その法人に農地を農地中間管理機構を通じ使用収益権等を設定した個人
・農作業委託者
・常時従事者
・農地を現物出資した農地中間管理機構
・地方公共団体、農業協同組合、農業協同組合連合会 - 農地所有適格法人の常時従事者たる構成員が理事(取締役)等の過半を占めること、またこれらに該当する理事等若しくは重要な使用人(農場長等)のうち1人以上が年間60日以上の農作業に従事すること
農地所有適格法人以外の法人にする
農業を法人化する際には、農地を所有しないのであれば上記の農地所有適格法人の要件を満たさない法人も考えられます。
農地の所有は「農地所有適格法人」にしか認められません。
しかし、農地を借りることは「農地所有適格法人」でなくとも認められます。例えば農地所有者が、自己が出資し役員となる(経営判断権を有する)会社等法人を設立し、農地所有者個人として、その法人に対し農地を貸す方法が考えられます。例えば都市農地貸借円滑化法等の特別法による農地の賃貸借(期間の定めがあり更新がない賃貸借)であった場合でも、農地所有者としてどうしても期間中に解約が必要な場合(相続税を払うためなど)が生じる事もあるでしょう。その場合には、賃貸借の貸主と借主の合意で解約することになります。この時農地所有者自らが経営判断権を有する会社が借主であれば、農地の賃貸借契約の解約の合意をえやすいでしょう。
農地を利用して福祉や地域貢献活動を行いたいと考える場合、一般社団法人やNPO法人などの団体を設立することも考えられます。これら団体は農地所有適格法人になることはできません(法人の形態要件があるため)しかし、農地を借りることはできるため、農地所有者がこれらの団体を設立し、農地を貸す方法も考えられます。